AIを活用した水道管路劣化診断に関する共同研究 PJストーリー

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堺市では、2021419日~630日の間、堺市内の全水道管路約2,400kmのうち、主要な管路である基幹管路(口径350mm以上の水道管路)の全管路約200kmと、泉北ニュータウンを含む南区エリアの配水支管(口径300mm以下の水道管路)約800kmを対象に、AIによる劣化予測の結果と漏水実績とを比較することで、本技術の有効性の検証や、予測結果を用いた水道管更新計画策定に関する共同研究プロジェクトを行いました。
本共同研究にかかわったプロジェクトメンバーの思いを座談会形式でまとめました。

 プロジェクトメンバーのインタビュー(2021年9月3日@WEB)

・西日本電信電話株式会社(以下、NTT西日本)
関西支店 ビジネス営業部 堺市ICT推進室 室長 坂本 竜哉、部長 奥村 祥三、小出健太郎
関西支店 ビジネス営業部 ビジネス推進部門 ビジネス推進担当 課長 岩下 裕之、主査 田上 太郎

・NTTビジネスソリューションズ株式会社 バリューデザイン部 バリューインテグレーション部門
ソーシャルイノベーション担当 インフラ・エネルギーG(水道ビジネス) 課長 鈴木 三暢、課長 河村 正士

・堺市 上下水道局 経営企画室 事業マネジメント担当主査 荒木 陽太、主査 月岡 香織

・ファシリテーター:堺市 政策企画部 先進事業担当 主幹 河野 譲二

NTT西日本 関西支店 坂本室長、岩下課長、小出様

 

 

プロジェクト実施に至った経緯、周囲の反応、議論の過程

月岡:
堺市で水道管劣化予測の独自の技術を持っていますが、より高い精度をめざして、別の視点から検討していました。
その際に、堺市がNTT西日本と包括連携協定を結んでいた関係もあって、先方から技術提案をいただきました。
AIという先進技術を活用することで、水道管の劣化予測の精度向上に寄与するか、また、本市の漏水実績データや管路情報の提供など、双方にメリットがあることから、実施に至りました。

上下水道局 経営企画室 月岡主査

 

ー 今までと違うアプローチをしてみることについて、まわりの職員の反応はいかがでしたか。

荒木:
水道管は、道路構造物などのように点検調査して老朽具合を確認できないため、過去の漏水実績などから予測していました。AIを使った劣化予測というのは、局内でも話題になっていた興味深い技術ですので、みなさん非常に高い関心をもってくれていました。

上下水道局 経営企画室 荒木主査

ー NTT西日本様はいかがでしょうか。

奥村:
堺市とは「ICTを活用したまちづくりに関する包括連携協定」を締結していて、これまでも地方創生を推進するために地域の課題への対応や市民サービスの向上、地域の産業振興などについて相互に連携しながら取り組んできました。
中でも「都市課題の解決」や「行政事務のDXの推進」の実現をテーマに、堺市上下水道局に対して水道管の状態把握や最適な更新計画の策定、災害等リスク・被害を未然に防ぐとともに、最大限の費用対効果を発揮するため、本取組みを提案させていただきました。

NTT西日本 関西支店 奥村課長

ー AI技術を活用した水道管更新計画策定の実証は日本初の試みだったと認識しています。技術的な面も含めて、市担当へはどのように説明したでしょうか。

田上:
堺市ですでに取り組んでおられる「腐食度予測」と他自治体で一部取り組んでおられるAI劣化予測の有用性を説明・確認して、水道事業のDX化を意識し、もう一歩踏み込んだ更新計画策定までの取組みについて議論させていただきました。

NTT西日本 関西支店 田上主査

 

難しかったこと、苦労したこと

ー プロジェクトを進めるうえで、工夫した点や苦労した点はどういったところでしたか。

田上:
日本初の取組みとして、正しい進め方が見えない中でなかなか工程表通りにいかないことも多く、都度、市担当の方と目的や方向性を確認し、検討内容を議論しながら進めました。
いかに有益な検討にするか、社内議論もかなりの回数を重ねて、何が必要なのかということを明確にして、そこから市担当の方に随時お時間をいただいてお打合せさせていただく。コロナ禍ですので打ち合わせはいつもWEB会議で行っていましたが、その都度、別部門の資料なんかもご準備いただくなど、市担当の方にも尽力いただきましたね。
私ども単独でやっているというより、まさに共同研究という形で一緒になってやっている感覚を持ち続けていただいたことが最大のポイントだったと思います。

河村:
今回の検討においては、地震事故率を加味したり、管路の重要度を数値化するための分析・定義付け、漏水によるリスクを費用で換算するための技術資料を堺市に提供いただきました。それら資料もかなり細かいデータもあるんですけど、俊敏に動いていただき、取り寄せていただいたおかげで、計画通り進捗できたと思います。

NTTビジネスソリューションズ株式会社 バリューデザイン部 河村課長

- AIを活用して検証を進めていく、市担当としてわからないことや難しいこともあったと思いますが、いかがでしたか。

月岡:
そうですね、まずはNTT西日本様にすごくサポートしていただいて、こちらの小さい疑問でも、すべて丁寧にご対応いただけたので、3か月という短い期間でしたが、特段困ったということはありませんでした。むしろ、システムを作っていくうえで、いろんな話を聞くことができたり、情報交換できたことは、とても有益でした。
また、劣化予測の結果と本市予測とを比較することで、精度を確認していくのですが、評価結果をどう分析・評価するのか、何度も議論しながら進めていけて良かったです。

荒木:
3か月の短い期間で、たくさんの検討項目があるなか、そのためのスケジュールと進捗管理をしっかり共有し守っていただけた。
いろいろな検討を進める中で、お互いの本音をしゃべる、言いにくいことやお互いの疑問点をしっかり話し合えたことが最終的な結果に結びついたと思っています。
また、こちらからの難しいリクエストや疑問に対するレスポンスの速さには驚かされました。

河野:
なるほど、公民連携での取組みを進めるにあたって、レスポンスを早くする、何でも話せる良好な関係性を作ることは必要なポイントかもしれないですね。

- それでは、市担当として苦労した点があれば、フランクに言っていただけますか?

月岡:
笑。そうですね、苦労した点ですと、コロナ禍での検討でしたから、すべてWEB会議で打ち合わせを行った点ですかね。実際に対面でお会いして話すと、ざっくばらんに話したり、表情やしぐさを見れることで親しみやすさも湧いてきて、より取り組みやすかったと思いますね。終始WEBだけですと、ちょっと堅苦しくなりがちで、コミュニケーション不足になりがちですが、今回はちょっとした疑問でも気軽に聞きあえる雰囲気や関係をNTT西日本様のほうでつくっていただいたので、非常にありがたかったなぁと思っています。

荒木:
私も同じですね。WEB会議でのコミュニケーションの取り方は難しかったですが、短い時間でもかなりの回数を重ねていく中で、同じ人だからこそ画面越しに表情もつかめるようになりましたね。あと、苦労した点でいえば、スケジュールを考慮して、リクエストの結果を出すまでに期限を1週間で決めて取り組んでいただいたので、私たちよりもNTTさんが苦労されていたかと思います。
ニューノーマルな会議スタイルに移行していく中で、行政職員はこういうことをあまり頻繁にしていないと思うので、先に慣れることができたのも貴重な経験だったと思います。

 

取り組んでよかったこと

奥村:
そうですね、やはり日本初の取組みについて、最後まで結果が出せたこと、ノウハウが蓄積できたことはとても有益だったと思います。

田上:
特にAIによる劣化予測と更新計画のところで、堺市がこれまで事前に実施していた腐食予測の結果であったり、管路の総合点数評価を比較することができて、提案したソリューションの結果や有用性を評価することができたのは良かった点であり、非常にありがたかったと思っています。

 

今後の展望や行政に対する期待

ー なるほど。それでは今回の実証結果を踏まえて、どのように事業展開に結び付けていくのかとか、展望であったり、堺市だけにかかわらず、行政に対して今後期待することなどあれば教えていただけますか。

奥村:
今回の結果を踏まえて、この事業のサービス化や他自治体様へ展開することで日本の水道事業の課題解決やICTを活用したDX化に結び付けたいと考えています。

鈴木:
そうですね、カッコつけて言うとですね、社会課題解決というテーマを常にもって動いています。こちらも様々な技術を研究して絶対にいいものだと言ってもらえるものを提案させてもらっています。
だからといって「これよかったら使ってみてくださいね」という形では入れればいいのですが、当たり前ですが実績もなければ使ってくれることはないんですね。ですから、最初の一個をどう使っていただくか、例えば導入した場合の費用対効果とか…そのあたりからディスカッションさせていただければありがたいと思います。

NTTビジネスソリューションズ株式会社 バリューデザイン部 鈴木課長

河野:
そうですね。既存の仕組みはもちろん大切ですが、新たな技術を知ろうとすること、有用性やメリット・デメリットなど、新技術に興味をもって聞いてみる姿勢も大事ですね。ありがとうございました。

 

行政職員として気づいたこと

- 最後になりますが、今回の実証に取り組んでみて気づいたことや今後にどう活かしていくか、熱く語っていただけますでしょうか。

月岡:
熱く語る…ハードル高いですね(笑)
そうですね、実証がスタートした序盤に、この実証の目的、この新技術をどのように使いたいのか、そこをはっきりさせることが重要だったと思います。既存のやり方を新しい技術に置き換える、ただ置き換えるのではなく、より良くして、業務の効率化も図れるようにする、そういう視点や考え方はすごく身についたと思いますし、大事だと感じました。

荒木:
私は水道事業の技術者として最新の技術に携われたことは貴重な経験をさせてもらったと思っています。また、新しい取組みを検討するにあたり、あらためていろんな角度から物事をみれるよう、もっと勉強していかないといけないなと気づかされました。私個人としても成長できたかな、と思っています。

※インタビューはWEB会議形式で実施し、本ページに掲載している写真は、インタビュー後、無言で撮影したものです。

 

 

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