アンドロイド・ロボットの将来的活用をめざした、認知症等の早期発見システムの確立に向けた実証 PJストーリー 

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堺市は、大阪大学大学院基礎工学研究科 石黒浩教授及び大阪大学先導的学際研究機構 西尾修一特任教授(常勤)・山崎スコウ竜二特任講師(常勤)や堺市健康寿命延伸産業創出コンソーシアム(以下「SCBH」という。)の会員である帝塚山学院大学、桃山学院教育大学、南海電気鉄道株式会社等と連携し、令和3年1月20日から令和3331日の間で、アンドロイド・ロボットを活用した認知症等の早期発見や見守りのコミュニケーションシステムの将来的な確立に向けた取組の一環として、泉北ニュータウン在住の高齢者を対象に、認知症の判別等の基礎データとしての対話データの収集を行いました。本実証に関わったプロジェクトメンバーの思いをインタビュー形式でまとめました。

 

 市職員のインタビュー(2021年6月23日)

 

写真左より

・ファシリテーター:大阪府 スマートシティ戦略部 課長補佐 大平 幸一
・地域共生推進課 課長補佐 幸地 仁詩
・政策企画部 先進事業担当 主査 中川 健太

実証のきっかけについて

この取り組みを始めたきっかけを教えてください。

幸地:

地域の高齢化が進む中で、認知症についても重要な政策課題になってきていますが、認知症の方は「周りの人に迷惑をかけたくない」という思いから人との関係を控える方や、認知症になっても本人や周りの人がなかなか気づけない、といったケースも見られます。
一方、人との関わりが減ると病気が進行してしまう原因にもなりますし、他の病気と同じように認知症も早期発見・早期対応が大切です。
こうしたことから、先進技術であるアンドロイドを活用した高齢者のコミュニケーション支援や認知症の早期発見は地域にとって非常に重要な取り組みだと考えて、取り組みを始めました。

堺市 地域共生推進課 課長補佐 幸地 仁詩 

中川:

市内で最も高齢化が進む泉北ニュータウン地域の現場でも、住民の方から認知症に関するお声などをよく聞いていましたので、政策企画部としてもスマートシティの取り組みで認知症は重要テーマとして位置づけていまして、今回のお話を大阪大学さんからいただいた時には、中長期的な視点で取り組むべき事業だと思いました。
また、大阪大学さんが様々なロボットを活用して、これまでも認知症の方のサポートについて研究されてきたこともお聞きし、最先端の知見を政策に活かす機会をいただけたこともうれしく思いましたね。

今回の実証はどのような体制で進められたんですか

中川:

今回は健常者の方の対話データを収集するために、帝塚山学院大学さん・桃山学院教育大学さん、南海電鉄さんにご協力いただきまして、三者が泉ヶ丘で行っておられる健康の教室に参加されている泉北在住の高齢者の皆さんにお声かけさせて頂きました。
また、大阪大学さんは事前に認知症の方とアンドロイドロボットとの対話データも収集されていまして、そちらは同じく堺市内にある浅香山病院さんと連携して行われていました。
今後は両方の対話データを比較して、認知症の方の対話の特徴を把握されるようです。

堺市 政策企画部 先進事業担当 主査 中川 健太

認知症は難しいテーマでもあると思いますが、今回の実証の成果はどのように考えられていますか?

幸地:

今回は音声データの収集が主な内容でしたので、まだスタート段階だと思っています。大阪大学さんは次のフェーズでロボットを使った対話データの収集、最終的にはロボットを活用した認知症などの早期発見をめざされています。大きなテーマですので社会実装までには時間もかかるかもしれませんが、将来の可能性に向けて本市としてもできるだけ協力させていただきたいと思っています。

ー 社会的に意義のある技術だと思いますし、ぜひ早く社会実装してほしいですね。最後に、将来的にこの技術が社会実装されれば、どのように活かしていきたいと考えていますか。

中川

見守りロボット等は今もありますが、技術がどんどん進化して、独居の方等も増えていく中で、今後ますます対話ロボットや見守りロボット等のニーズも増えていくように思います。ロボットを使えば、高齢者にとって身近な場所やシーンで認知症の兆候にも気づくことができるようになると思います。

幸地:

認知症の方は周りの人間がきちんと状況を理解し、サポートすればもちろん日常生活もできますので、認知症の方ご本人や周りの方々に「この技術があってよかったわ~」と言っていただけるよう、活用していきたいと思っています。

大阪大学 山﨑様からのコメント

大阪大学先導的学際研究機構附属共生知能システム研究センター 特任講師 山﨑スコウ 竜二 様

ー今回の研究プロジェクトを始められた経緯をお教えください。

山﨑:

急速な高齢化は、日本社会が世界をリードして取り組む必要がある課題です。その行方を見極める試金石となるのが、認知症とともに生活の質を高められるのかを探るチャレンジです。認知症の人の困難は、たとえば感染症とともに私たちに突如訪れた社会的孤立の日常化と重なります。他方で、認知症の人のケアは担い手の不足が著しい、という問題もあります。対して、これまで私たちの研究グループは対話用のロボットメディアを活用し、特に認知症の人の対話支援の可能性を検討してきました。対話データの活用を進め、認知症の人の対話の特徴や構造を明らかにして、より話しやすい対話システムの開発や症状の予測、支援技術の開発につなげたいと考えています。こうした研究を進めるために健常高齢者の対話データが必要になりました。

ー今回、堺市をフィールドとして選ばれた理由をお教えください。

山﨑:

堺市は自治体として泉北ニュータウンでのまちづくりや、ヘルスケア領域での積極的な取り組みを進めておられます。そのつながりのなかで、帝塚山学院大学様、桃山学院教育大学様、南海電鉄様からも幸いご協力を得ることができ、健康教室の参加者などに実験協力を呼びかける機会を頂けたことが理由です。

実際に堺市で取組を行ってみていかがでしたか。

山﨑:

コロナ禍では、実際に健常高齢者を対象に実験協力者を募り、お声かけするための機会を得ること自体が難しいことでした。しかし、関係者の皆様のお力添えを頂きまして、数十名の候補者に実験への参加を呼びかけることができました。そして実際、20名近くの高齢者のご協力を得て対話収録を行うことができ、本研究を進めることができたことに感謝しています。加えて、今後の実験協力希望者として35名を上回る多くの高齢者にご登録いただけたことにも感謝しています。

本実証でどのような知見を得ることができたかお教えください。

山﨑:

堺市ではまず専門医による診断を受けた認知症の人から対話データの収集を開始して解析を始めていましたが、これまでに特定の検査での質問への回答ではなく、自由に行う対話のデータから機械学習のアルゴリズムを用いて認知症の重症度判定を行い、予測精度が80%を超える有望な結果が得られています。この研究の意義として、日々の対話データを用いる簡便な提案手法により、MRIなどの大型装置や専門的技能を必要とした従来の推定技術の代替や相補的に発展するような技術開発の可能性に期待が寄せられます。今回の健常高齢者のデータ処理を進めていますが、比較を通して認知症の人の対話の特徴を明らかにするとともに、認知症の人が話しやすい対話システムの開発につなげたいところです。

ー本実証で得た知見を踏まえ、今後どのような形で社会実装に向けて取り組んでいきたいかについてお教えください。

山﨑:

認知症の人の対話を効果的に促すことができる対話システムをロボットに実装していくことにより、自宅などでの日常的な利用のなかでデータの活用を図りたいと考えています。具体的には、認知症の重度化に伴って症状が悪化する前に兆候をつかみ、対話によって緩和する予防的対処を目指しています。また、健常高齢者に合った対話技術の開発へと進めることにより、長期の利用を通して認知症の早期の発見や対応、社会的な関係性の発展に役立てられるかを検討し、高齢社会の伴走者としてのメディアのあり方を提示していきたいと思っています。

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