加齢難聴支援機器 導入プロジェクト PJストーリー

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堺市では、令和2年10月1日〜令和3年3月31日の間、介護予防教室に通う高齢者を対象に、高齢者が特に聞き取りにくい周波数帯である高周波音域の音をクリアにするスピーカーであるロボット技術対話型支援機器「comuoon」(ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社による開発・無償貸与)を活用した調査を行いました。
本実証にかかわったプロジェクトメンバーの思いをインタビュー形式でまとめました。

 市職員のインタビュー(2021年3月30日)

写真左より
  • 政策企画部 先進事業担当 主査 中川 健太
  • 地域包括ケア課 課長補佐 花家 薫
  • 政策企画部 先進事業担当 澤野 恵梨
  • ファシリテーター:大阪府 スマートシティ戦略部 牧野 陽

連携のきっかけ

ー ユニバーサルサウンドデザインさんと連携することになったきっかけを教えてください。

花家:
経済産業省の認知症の共生社会に向けた実証プログラムで、企業と自治体をマッチングし、連携事業を生み出すというものがあり、その中の企業リストに「聞こえの支援」のユニバーサルサウンドデザインさんの案件があったんです。切り口として面白いなと思い、マッチングしてもらいました。

地域包括ケア課 花家課長補佐

 

澤野:
あと、もともと花家補佐は堺市役所で唯一の言語聴覚士の有資格者なんですが、私たちも花家補佐の専門職としてのノウハウも活かせる良い案件だと感じました。

花家:
例えば、介護予防教室では講師の声が聞こえず、運動についていけない人がいたり、「聴こえ」の課題はずっと認識していましたので、それを解決できるのは高齢者の 市民の皆さんにとって良いことだろうと思いました。

私たちが聞いても普通のスピーカーなんですが、特に高齢者が聞き取りにくい、高い周波数の音を増幅する機能があるので、高齢者にとってはすごく聞き取りやすいんですよ。これを今回の実証では、市が主催する介護予防教室で導入しようと考えました。

 

ー 実証ではどのくらいの人数の方が利用されたんでしょうか?

花家:
当初、10月から3月末までの期間で1500名程度の方に試して頂こうと思っていたんですが、コロナ禍で介護予防教室が中止になったので、結局2ヶ月しかできませんでした。その中で、400名程度の方に体験して頂きました。

使い方としては、会場の講師の脇にこのスピーカーを置いて、講師がマイクでお話をするという形で、手軽に利用することができました。参加者アンケ―トでは約67%の方が聞こえやすくなった、と答えておられました。

 

苦労した点

ー 実証される中で苦労された点等はありますか?

花家:
スピーカーを会場に置いておくだけでできて、市民の方に何か負担がかかるものでもありませんので、非常にスムーズにできました。介護予防教室自体は市が委託した専門家の方にやって頂いているので、その専門家の方向けに機器の説明会をやって、実際に試してもらって、現場で使用して頂きました。

その後、この製品はマンツーマン対応の窓口部署等でも使えますので、「他部署にも貸し出しますよ」と庁内で募集したら、貸出の予約が殺到しまして、図書館や区役所等で利用されました。うちの部署もそうですが、機器を購入するところも出るほど、市役所内の各部署で効果を感じてくれています。

あとは、コロナの濃厚接触者の方が宿泊施設で過ごすというケースで、加齢性難聴の方がいたので、看護師さんに防護服姿でこれを持って話をしてもらったら、「離れていてもよく聞こえた」という感想をいただけたこともありました。

今回の実証を通して、様々な市民支援のシーンで有効な機器だということも証明し、発信できたのは良かったと思っています。公的補助を受けながら機器を購入することもできますし、市民の皆さんにこういう機器を使用して生活の質を高めて頂く、そういったところに繋げていくためのPRも今後していきたいなと思っています。

中川:
この機器はもともと、別にコロナ禍でなくても「聴こえの問題」という社会課題があって製品として成立していたわけですが、ただ今回はコロナ禍という中で実証を行うことで、より製品としての有効性を感じられましたね

政策企画部 先進事業担当 中川主査

 

ー コロナのようなことがきっかけで、こういう新しい機器やソリューションが現場に導入されやすくなったというのはありますよね。この取組を見ていてすごく感心したのが、「みんながマスクしてるし、やっぱりちょっと声が聞き取りにくい」というのは、この1年間、自分は聴覚に何も問題はないと思っている人を含め、みんなが経験していたことだと思うんですね。だからこういう機器に対しても、「やっぱりそういう問題ってあるよね」という風にリアリティをもって受け入れられた感じがしますね。 

花家:
ユニバーサル・サウンドデザインさんも、コロナ禍でのこちらの問題意識を伝えると共感して頂いて、最初想定していたよりも多くの数の機器を貸してくださったり、すごく柔軟に対応して頂きました。また、コロナ禍で大変な時にもかかわらず、遠方から担当者の方が堺に来てくださり、私たちや専門家の方にも細かく色々とご説明してくださったので、私たちも熱意を感じて、強い信頼感をもって取り組むことができました。

澤野:
企業さんにそこまでして頂くと、私たちとしても「何とかしてプロジェクトを成功させて、市民の皆さんにはもちろん、企業さんにも喜んでもらいたい」と考えますよね。そういうお互いの心のつながりみたいなものが公民連携で実証を進めていく上では大切だと感じましたね。

政策企画部 先進事業担当 澤野

ー 仕事をしていると、高齢の方とコミュニケーションがうまく取れないというケースは多くの方が経験されたことがあると思うんですが、それが「聴こえの問題」というふうに直結しないと思うんです。でもこういう製品が広がると、みんながそのことに気づくきっかけにもなるでしょうし、そういう意味でも今回の実証の意義を感じますよね。

 

公民連携のポイント

ー 最後に、今回の実証を通じて、「こういうふうにしたら、公民連携の実証はうまくいく」と感じたことを教えてもらえますか。

花家:
今回感じたのは、本当に普段から色々と問題意識を持って業務に取り組んでいると、こういった時に活きるんだな、ということです。事業を進めるのはやはり1人ではできないですし、一緒に考えて行動してくれる人がいる、あるいはその仕組みがあることでうまく事業が進んでいくということも改めて感じました。

中川:
庁内的な話になりますが、私たち企画部門にいる事務職の人間は、「健康」や「福祉」等といった専門性がありませんので、花家補佐のような担当部署の人に信頼してもらい、一緒にプロジェクトを進めていけるように汗をかくことが大切だと思っています。

それは企業さんに対しても同様で、市民の皆さんに喜んで頂ける施策が公民連携でできるよう、「企業さんにとって、無償でこの実証を堺でやることの意味は何か」ということを私たちなりに考えながら努力することが大切だということや、その気持ちを持つことで、企業さんにも「堺のために汗をかいて頑張りたい」と思ってもらえるんだ、ということを今回の実証を通じて改めて学びましたね。

 

 

ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社様からのコメント
ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社 代表取締役 聴脳科学総合研究所 所長 中石 真一路様

今回の実証で用いた製品・サービスを開発された経緯をお教えください。

私の父も祖母も耳が聞こえにくく、家族とのコミュニケーションに苦労していることを小さいころから見ていました。補聴器等も試しましたが、なかなかうまくいかずに家族間で対話がうまくいかない場面も多々ありました。これまでは耳が聞こえにくい方が支援機器を装用し、聞こえを補助するケースが一般的でしたが、「話す側でも歩み寄ることができるのではないか?」と考え、前職のEMIミュージック・ジャパンにて約3年に亘る研究の末、音声高精細化特許技術「Sonic Brain」を採用した世界初となる耳につけない対話支援システム「comuoon(コミューン)」の発明に至りました。  

なぜ堺市と連携して実証を行おうと考えたのかをお教えください。 

経済産業省の事業でのマッチングが最初のきっかけですが、その後、堺市の担当者とお話する中で、特に地域包括ケア推進課の花家課長補佐(当時)が、高齢化社会における難聴の早期発見と対話支援システムcomuoonを活用した「聴覚機能の維持」の重要性について強く共感してくださったのが大きかったと思っています。

現在ではまだ認知も低く一般的に知られていない「高齢難聴と認知症」について、地域包括ケアの立場からも色々と情報を発信したり、対話支援システムを活用した飛沫感染予防や聴脳力アプリを活用した「ヒアリングフレイル予防」の取組等を堺市との連携事業として進めていくことで、聴覚の健康維持を通して堺市民の皆様の生活の質の向上などに貢献したいとの思いで連携させて頂きました。  

ー 堺市と実証をしてみて、どうだったかお教えください。

comuoon使用により約67%の方に聞こえの改善効果がみられ、聞こえの支援機器の効果の有効性が確認できてよかったです。 昨年10月1日から令和3年3月31日までの半年間、堺市内の介護予防教室でcomuoonを導入し、参加される方を対象に『聞こえ』に関するアンケートを実施させて頂く予定でしたが、コロナ感染症拡大の状況を鑑みて、実施期間を2ヶ月に縮小しての実施となりましたが、その限られた期間の中でも400名を超える参加者の方々がアンケートにご協力くださったことには感謝の気持ちでいっぱいです。

感染防止の観点からも大きな声を発することを控えることが重要である中、感染対策を行いながらもコミュニケーションの質は落とさない事で、ご高齢者だけではなく、スタッフの方々も聞き返しや言い直しの回数が減少する事で双方の負担は軽減できました。「脳まで届く音質向上技術」Sonic Brain(ソニックブレイン)により、高齢者など聴こえに不自由をお持ちの方々との音声対話をサポートすることで、お互いに無理なく、より自然で、よりお互いを尊重し合えるコミュニケーションを可能とし、安心で快適な情報伝達とそこから生まれる信頼関係向上、福祉サービスの質の向上を実現できたと考えております。 

ー 今後、実証を踏まえ、どのような事業展開に結び付けていきたいと考えているか、お教えください。

聴力の低下は『老化現象』として軽視されがちですが、最新の研究では認知症やうつ状態のリスク要因となることが明らかになっております。ジョン・ホプキンス大学とアメリカの国立老化研究所の合同研究では、加齢と共に脳が萎縮する傾向があり、難聴の高齢者ほどこの変化が強く現れることと明らかになっております。

難聴を放置した場合の認知症のリスクは、軽度難聴の方は2倍・中等度難聴の方で3倍・重度難聴の方は5倍のリスクがあると学会で報告されています。ご自身の聴力の程度を把握できない事で、聞こえにくさを単なる『老化現象』として軽視してしまう風潮になっていると思いますので、弊社では皆様に聞こえに関して興味を持って頂くための取り組みを強化しております。

その為に、聴力の見える化をはかり、手軽に自身の聴力をチェックできるアプリを開発(みんなの聴能力チェック)していますが、定期的にチェックする事で自身の聴力低下を予防でき、スムーズなコミュニケーションはもとより、QOL向上、認知症などの予防にも繋げることができると考えております。

ヒアリングフレイルとは『耳の虚弱』という意味で、加齢と共に聞き取る能力が衰える状態(いわゆる難聴)ですが、聴覚機能の低下の早期発見・早期ケアを行うことで高齢者の健康維持や病気予防につなげることができますので、弊社としてもヒアリングフレイルの予防に今後益々注力していきたいと考えております。